サブスクの概念を医薬品マーケティングに活用できるか?

最近はNetFlixやSpotifyなどサブスクビジネスがどんどん増殖しています。そしてサブスクのビジネスモデルを考える上で無視できないのがLTV(Life Time Value)です。

LTVは直訳すると顧客生涯価値で「一人の顧客が生涯でどの程度の価値をもたらすか」を表す数値であり、主にマーケティングを考える時に用いられます。生涯といっても、業界によっては1年間としていたり、1回の契約開始から終了までだったり定義は様々です。

製薬会社で働いている時はLTVという数値を扱ったことがなく、マーケティングの勉強のため社外に出てみると「LTVを使わないマーケティング部員なんてこの世に存在しない」みたいな世界に面喰いました。売上分析を専門に扱う部署にいたにも関わらずです!

そこでLTVが製薬のマーケティングにも活用できるのか?また活用することで製薬企業のマーケティングレベルは向上するのか?と考えました。

薬の処方をSpotifyみたいなサブスクと考えてみる

サブスクは顧客が契約を開始して、毎月課金があって、契約終了で終わります。薬も患者さんが服薬を開始して、毎月処方されて、飲むのを止めたら終わると考えると、同じ性質を持っていると考えられます。(ややこしいので長期管理薬、すなわち頓服薬や短期間だけ飲む薬じゃなく、一回飲み始めたら基本的にしばらく止めない薬を想定します。)

サブスクにおけるLTV計算は次のように計算されます。

LTV = ARPU / Churn Rate

ARPUは「Average Revenue Per User」の略で、1ユーザーあたりの平均売上です。場合により売上じゃなくて利益だったりもしますが。Churn Rateはチャーンレートと読み、離脱率のことを指します。

薬に置き換えると次のような式になります。
LTV = 1患者あたりの平均売上 / 服薬離脱率

1患者当たり月12,000円の売上で毎月20%ずつ離脱する薬なら、12,000÷0.2でLTVは60,000円ということになります。

薬もサブスクのようにLTVで考えられそうなことは分かりましたが、それだけでは「それがどうした?」ですよね。LTVを算出する意義としては、ブランドロイヤルティの指標にもなったり、顧客1人の獲得に支払うべきコストの基準になったりします。

顧客1人の獲得に支払うべきコストの基準になる

乱暴に言うと「LTVが60,000円やから、サブスクで顧客を1人獲得するのに60,000円まで使えるやん!」みたいに考えられるということです。実際にこんな主張したら怒られますが。

じゃあいくらまで使えるの?というのは別の機会に触れるとして、今払っているコストが果たして安いのか?高いのか?を考えることができます。例えば売上の予測、その予測に対しての売上目標、そのために使う予算をプランニングを行い、役員の承認を得る状況があるとします。そのような際に、ロジックを補強するのに使える可能性があります。


役員
「今年のGA錠の売上目標って、〇〇円上げられるかな?」

自分
「すでにGA錠は、LTVに対する1人の患者さんに服薬開始してもらうためのコスト割合が、他の製品よりもかなり低くなっています。売上目標を〇〇円まで上げる為に、他の製品と同じ水準までプロモーションを強化したいので、予算を△△円ください。」


結論としては、サブスクの概念(今回はLTV)は医薬品のマーケティングを考える上で有用そうだということでした。製薬会社で事業計画を練る方や、売上やポートフォリオの分析をされる方は、一度会社の製品のLTVとコストの割合を並べてみて、製品ごとのコスト効率を確認してみるのも面白いかもしれません。

ただSpotifyのようにユーザー数のデータが簡単に取れるサブスクと違って、医薬品のマーケティングにおいて患者数を求めるのは、実は非常に困難なんです。患者数をどう考えるのか、コストはいくらくらい使っていいのかについては、別の機会で記事にしたいと思います。