医薬品の販売量を示す単位PATDAYとは?

以前、以下のポストでPATDAY(患者人日)という単位は非常に便利だとお伝えしました。 PATDAYは「パットデイ」と呼ばれ、医薬品マーケティングにおいて医薬品の販売量を把握するのに、大変役立つ単位です。

PATDAYの計算式は色々ありますが、下記のように計算します。

  • 売上錠数 ÷ 1日服薬錠数
  • 患者数 × 平均服薬日数
  • 売上金額 ÷ 一日薬価

マーケティングにおいて、自社品の経時的な増減を見ることや、自社と競合の量の比較って当たり前にしますよね?ではどうやって量の比較をしたら良いでしょうか。

普通に考えると次のようなアイデアが恐らく出ると思います。

「量なら〇〇錠じゃダメなの?」
「〇〇錠じゃダメなら患者さん△△人分では?」
「金額で比較してしまうのは?」

もちろんそういった比較をすることは場合によっては間違いではありません。ただ錠数・患者数・金額では、それぞれ上手く比較できないケースがあります。


錠数で見ると1日に服薬する量が多い薬が優位になる(実態より多く見えてしまう)

たとえば1日1錠服薬のGA錠と、1日3錠服薬のHB錠があるとします。100錠を売り上げているGA錠と、同じく100錠を売り上げているHB錠では、どちらの方が多く使われていると言えるでしょうか。

「両方とも同じ錠数だから、両方同じ量使われている」という見方もあります。

ただしお察しの通り、1日の服薬錠数によって印象は変わります。 1日の服薬錠数が多い薬ほど、たくさん出ていないと公平じゃないですよね。

「HB錠の方が1日服薬量がGA錠の3倍なので、GA錠100錠に対して、HB錠300錠出てないと”同じ量”とは言えないんじゃない? 」と考えることができます。

つまり上の例だと同じ100錠でも、GA錠は100日分ですし、かたやHB錠は約33日分になります。 HB錠の方が少なく感じると思います。

この”〇〇日分”がまさにPATDAYという単位です。冒頭でPATDAYの計算式は「売上錠数 ÷ 1日服薬錠数」だと解説しました。今回のケースだと次のような計算になります。

GA錠:100錠 ÷ 1錠/日 = 100 PATDAY
HB錠:100錠 ÷ 3錠/日 = 33.3… PATDAY

つまり両剤ともに同じ錠数が販売されたものの、GA錠の方が1日服薬錠数が少ないため67 PATDAYだけ多いと言えます。

ちなみに1日の服薬量が一定の医薬品であればシンプルですが、病状によって1日の服薬量が変わるような医薬品は少し複雑です。仮に1年前と現在で、1日の平均服薬錠数が1錠から2錠に増えた場合、販売錠数が全く変わらない場合でもPATDAYは少なく(半分に)なることに注意が必要です。


患者数で見ると平均服薬日数が少ない薬が優位になる (実態より多く見えてしまう)

つい患者数が多い薬ほど、よく使われていると感じてしまいます。例えば10人の患者さんがいて、GA錠を服薬している患者さんが3人、HB錠を服薬している患者さんが7人だと「HB錠の方が売れてる!」と言いたくなりますよね。もちろんこれも間違いではありません。

ただし仮に、GA錠は平均服薬期間(DOT: Days of treatmentとも呼ばれます)が250日/年で、HB錠では100日/年だとします。するとGA錠の方が飲んでいる期間が長いため、少ない患者数だとしても、医薬品の販売量としては多くなります。これについては当たり前で特に詳しい解説は不要だと思います。

じゃあどれくらい違うの?と比較するために、PATDAYが使えます。冒頭でPATDAYの計算式は「患者数 × 平均服薬日数」だと解説しました。今回のケースだと次のような計算になります。

GA錠:3人 × 250日/年 = 750 PATDAY
HB錠:7人 × 100日/年 = 700 PATDAY

つまりGA錠の方が患者数は少ないものの、平均服薬期間が長いので50 PATDAYだけ多いと言えます。


売上金額を使って量を比較するのはもちろん難しい

これは医薬品に限らず当たり前のことだと思います。ただ医薬品に特徴的なことの1つに、日本には薬価改定があることがあります。

「1年前も今も10,000 PATDAYで、全く変わってないのに売上金額が10%落ちた」みたいな状況があると思います。

この場合、原因は薬価改定による単価減少1日の平均服薬錠数の減少が考えられます。この2つは単価と量の単位であり、何故この2つが原因になるのか混乱しそうですが、要は”1日分の薬価減少“と言い換えることができます。(1日薬価やPATDAY priceと呼んだりします)

冒頭でPATDAYの計算式は「売上金額 ÷ 一日薬価」だと解説しました。今回のケースだと次のような計算になります。

1年前:1,000,000円の売上 ÷ 100円/日 = 10,000 PATDAY
現在:900,000円の売上 ÷ 90円/日 = 10,000 PATDAY

つまり売上金額が減ったものの、1日薬価も同じ割合減ったので、PATDAYは変わらないという状況です。


PATDAYを介した連立方程式で売上金額が増減した理由を探る

PATDAYの計算式を再掲します。

  1. 売上錠数 ÷ 1日服薬錠数
  2. 患者数 × 平均服薬日数
  3. 売上金額 ÷ 一日薬価

もし「売上金額が減少した理由は?」と聞かれると、上記の計算式を知っていれば、下記のようにPATDAYを介した連立方程式を組んで考えることができます。(次の式は2と3の式を使用)

(3) 売上金額 ÷ 一日薬価 = (2) 患者数 × 平均服薬日数

売上金額 = 患者数 × 平均服薬日数 × 一日薬価(1錠あたりの薬価 × 1日の平均服薬錠数)

つまり売上金額の減少理由は、患者数・平均服薬日数・1錠あたりの薬価・1日の平均服薬錠数のどれかが減っていると考えられます。


私がマーケティング部に異動する前のMRだった時には「PATDAYとは薬の量を表す単位である」くらいの認識しかありませんでした。上記のようにPATDAYは便利な単位で、概念は理解しやすいと思います。

ただニッチなトピックだからだと思いますが、検索してもPATDAYの解説は出てこず、本質を理解して使いこなせるようになるまでは苦労しました。是非、「ここが分かりづらい」や「マーケティング部に異動したばかりでレクチャーしてほしい」みたいなことがありましたらご連絡ください。